脳梗塞とは何か
脳梗塞(のうこうそく)は、脳の動脈が血栓などによって閉塞し、酸素と栄養を失った脳細胞が壊死してしまう疾患です。日本人に発症する「脳卒中」の約7割を占め、要介護原因の上位を長らく占めてきました。日本脳卒中データバンクの最新年次報告(2024年版)によれば、年間発症数は依然20万例規模で推移しており、高齢化に伴って患者数の総量は増加傾向にあります。
脳梗塞の読み方と語源
「脳梗塞」という医学用語の読みはのうこうそくです。語源は「梗」が「ふさがる」「詰まる」という意味をもち、脳血管が閉塞する病態を端的に示しています。また「塞」の字は「そく」とも読み、医学用語で「閉じる」「詰まる」を表す接尾語として多用されます。
脳卒中と脳梗塞の違い
脳卒中は脳血管障害の総称で、①血管が詰まる「脳梗塞」、②血管が破れる「脳出血」、③動脈瘤破裂による「くも膜下出血」という3つの病型を包含しています。一方、脳梗塞はそのうちの「閉塞型」のみを指す疾患名であり、治療法も病型ごとに大きく異なります。
男女で異なる脳梗塞: 前兆と初期症状
男性に多い警告サイン・脳梗塞の前兆
男性では喫煙や高血圧、睡眠時無呼吸症候群の合併が多く、ニコチンによる血管内皮障害が発症を早めると考えられます。発症前には「起床時の片麻痺感」「シャワー中の急な視野欠損」「深夜の手足脱力」といった症状で救急搬送される例が目立ちます。国立がん研究センターが40~59歳の男女4万人超を11年追跡した解析では、喫煙男性は非喫煙男性に比べ脳卒中発症リスクが約1.3倍と報告されています。
女性に多い警告サイン・脳梗塞の前兆
女性ホルモンの減少が動脈硬化を進行させる閉経後は、特にリスクが急上昇します。特徴としては「片頭痛に似た閃輝暗点を伴う視覚異常」「急激なめまい」「片側のしびれを肩こりと誤認」「ろれつ障害だが本人は自覚薄い」といった非典型症状があり、家族が異変に気づくケースも多く見られます。
共通する初期症状
男女ともに高頻度で出現するのは、顔の片側の歪み、片腕の脱力、言語障害です。これらが数分から数時間で自然に軽快する場合があり、これはTIA(Transient Ischemic Attack)―いわゆる「一過性脳虚血発作」で、本格的な脳梗塞の“警報”として非常に重要です。TIA発症後1週間以内に約10%、3か月以内に約30%が脳梗塞へ進展するとされており、症状が消えても救急受診が必須です。
脳梗塞早わかり初期症状チェックリスト(FAST/BE-FAST)
家庭や救急現場で脳梗塞の可能性を迅速に判断する国際的な合言葉がFASTです。F=Face(顔のゆがみ)、A=Arm(腕の挙上不能)、S=Speech(言語のもつれ)、T=Time(発症時刻確認と即通報)を指し、どれか一つでも当てはまれば救急車要請が推奨されます。さらに2020年以降はBE-FASTとしてBalance(平衡障害)とEyes(視覚異常)を加えた6項目での確認が広がり、めまいや視覚症状主体の後方循環梗塞を拾いやすくなっています。
脳梗塞の原因とメカニズム
脳梗塞の3大病型は以下のとおりです。
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞は、頸動脈や大脳の主要血管など太い血管に発生したアテローム(粥状硬化)プラークが破綻し、その部位に形成された血栓が血流に乗って脳内に移動することで起こります。プラークの形成には高コレステロール血症や喫煙、高血圧が大きく関与しており、血管壁に蓄積した脂質が慢性的に炎症を引き起こすことで進行します。
症状としては比較的ゆっくりと進行し、片側のしびれや脱力、言語障害が数時間から数日にわたって悪化することが多いのが特徴です。 予防には脂質管理や生活習慣の改善、場合によっては頸動脈内膜剥離術などの外科的介入が検討されます。
心原性脳塞栓症
心原性脳塞栓症は、主に心房細動などで心臓内に生じた血栓が左心房から拍出され、脳動脈を閉塞することで発症します。高齢者や心疾患を背景に発症することが多く、突然の激しい麻痺や意識障害、言語障害を伴う場合が少なくありません。診断には心エコーや24時間心電図モニタリングが有用で、治療としてはDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)などによる抗凝固療法が第一選択とされています。予防には心房細動の早期発見と抗凝固管理が重要です。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は、直径0.2~0.5mm程度の細い穿通枝(脳深部の細動脈)が長年にわたる高血圧の影響で徐々に硬化・狭窄し、最終的に完全閉塞することで生じます。通常は比較的小さな病巣となるため、症状は軽度の純運動障害や感覚障害にとどまることが多いですが、複数個発生すると認知機能低下や歩行障害へと進展することがあります。管理では血圧コントロールが極めて重要で、ACE阻害薬やARBなどを含めた降圧療法が中心となります。加えて、生活習慣の見直しや抗血小板薬の内服も再発予防に寄与します。
脳梗塞の最新の診断・治療ガイドライン
診断
発症早期には非造影CTまたは拡散強調MRIを用いて出血性病変を除外し、虚血範囲を把握します。CT血管撮影や灌流画像を併用することで血栓部位とペナンブラ(可逆域)を評価し、血管内治療の適応判断に直結させます。
静注血栓溶解療法(rt-PA)
日本脳卒中学会の静注血栓溶解療法適正治療指針(2023年9月追補)では、発症4.5時間以内にアルテプラーゼ0.6mg/kgをボーラス投与し、1時間持続静注する日本独自レジメンを推奨しています。65歳未満で大血栓が疑われる症例には0.9mg/kgの適応検討も議論されています。
機械的血栓回収療法(EVT)
大血管閉塞(内頸動脈・中大脳動脈M1・椎骨脳底動脈など)では、ステントリトリーバーや吸引カテーテルを用いる血栓回収が標準治療です。国際試験結果を受けて、発症後24時間までの適応が国内ガイドラインでも条件付きで推奨されています。
後遺症とリハビリテーション
脳梗塞後の主な後遺症には、片麻痺、感覚障害、構音障害、嚥下障害、高次脳機能障害、うつ症状などがあり、多岐にわたります。日本の急性期病院では発症後48時間以内にリハビリテーション専門職が介入し、脳の可塑性が高い6か月間に集中的な訓練を行う「超早期リハ」が標準となっています。全国登録データでは、早期リハ介入群で自宅退院率が1.4倍高かったと報告されています。
再発予防と日常でできるセルフケア
減塩(一日6g未満)と地中海食を参考にしたバランスの良い食生活が血圧・脂質管理を助けます。次に中等度の有酸素運動を週150分行い、BMI25未満を維持しましょう。さらに禁煙・節酒は男女とも必須であり、喫煙継続による動脈硬化リスクは男性で1.3倍、女性で2倍とされます。65歳以上では心房細動のスクリーニングを定期的に行い、携帯型心電計の活用も推奨されます。最後にストレスマネジメントと十分な睡眠を確保し、抗酸化作用のある野菜やオメガ3脂肪酸を積極的に摂取することで血管内皮機能を保護することが大切です。
まとめ――“時間は脳” いざという時の行動が未来を守る
脳梗塞は発症から治療開始までの「時間」が予後を大きく左右する疾患です。特に、ゴールデンタイムと呼ばれる発症から4〜5時間以内に治療を開始することが非常に重要です。この時間内に適切な治療が行われると、後遺症を劇的に減らすことができます。顔や腕、言葉に違和感を覚えたら、迷わず119番通報し、発症時刻をメモして救急隊に伝えましょう。このシンプルな行動だけでも、予後を大きく改善する可能性があります。さらに、日々の生活では、血圧、血糖、脂質、脈拍をセルフモニタリングし、禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事といった基本的な予防策を守ることが最良の予防につながります。
脳梗塞は決して高齢者だけの病気ではありません。40代・50代で増えている隠れ脳梗塞やTIAの段階こそが介入チャンスです。健康診断だけでなく脳ドックで血管を可視化することが、将来の自分と家族の暮らしを守る第一歩になります。
大田ケア訪問看護ステーションにおける脳梗塞ご利用者さま支援
大田ケア訪問看護ステーションは、大田区を中心に世田谷区・目黒区・品川区・川崎市の一部エリアを訪問エリアとする地域密着型の訪問看護ステーションです。その理念「ぬくもりと優しさ ココロに寄り添う看護」のもと、脳梗塞を発症されたご利用者さまとご家族の「いつもの暮らし」を取り戻すために、専門的な看護・リハビリテーションを一体的に提供します。
病院退院後、ご自宅での不安や孤独感は想像以上に大きいもの。訪問看護師とリハビリスタッフが、「痛みやしびれへの対処」「日常を取り戻すための小さな目標設定」「再発防止のための生活習慣改善」まで、心を込めてサポートします。
脳卒中ケアの土台は「対話による心のつながり」
脳梗塞ケアの土台には「対話による心のつながり」が欠かせません。訪問看護師は、発症からリハビリまでの経緯、患者さんご自身の不安やお悩み、あるいはご家族の日常の出来事に至るまで、時間をかけてじっくりと共有します。そのうえで、医師や薬剤師、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャーら多職種チームと密に連携し、最新のリハビリ計画や医療処置の方針を常にアップデートします。
脳卒中リハビリでは「できること」を一つひとつ増やす
脳梗塞リハビリでは「できること」を一つひとつ増やすことがQOL向上の要です。大田ケアでは、訪問時の歩行練習や上下肢機能訓練に加え、様々な“実生活に即した課題”を取り入れることで、ご利用者さま自身が「自分でやれた!」という達成感を得られるようプログラムを検討しています。さらに、認知障害や感情失禁といった高次脳機能障害には、環境調整(見やすいカレンダー設置や声かけタイミングの工夫)とともに、ご家族へのアドバイスを組み合わせることで二次的ストレスを少しでも減らし、安心して在宅生活を続けられる仕組みを整えています。
在宅ケアの要となる訪問看護では、バイタルチェック・創傷管理・排泄ケア・手足の痙縮コントロールなど医学的ケアを、訪問リハでは歩行・動作練習やADL(日常生活動作)指導を担います。ケアマネジャーやご家族ともさまとも情報共有をしながら、目標設定と進捗確認を定期的に実施。住宅改修や福祉用具の導入提案も行い、段差解消や手すり設置で転倒リスクを抑制します。
訪問看護・訪問リハビリともに介護保険の適用下で自己負担は1~3割です。大田ケアでは、ケアマネジャーと連携して要介護認定申請のサポートを行い、各種お手続きの不安を取り除きます。
脳卒中のご利用者さまとご家族の“これから”を共に描きます
住み慣れたご自宅で安心してリハビリを続けることで、退院後の再入院リスクを下げ、最終的には「自立した日常生活の再構築」を目指します。脳梗塞後の生活設計や訪問看護・リハビリに関するご相談は、ぜひ大田ケア訪問看護ステーションまでお問い合わせください。
大田ケアは、医療的ケアとリハビリを通じて、脳梗塞患者さんとご家族の“これから”を共に描きます。心に寄り添う訪問看護で、一日でも早く、ご自分らしい暮らしを取り戻しましょう。
脳梗塞は「発症した瞬間から時間との戦い」が始まり、退院後も「生活期」という第二ラウンドが続きます。医療者・患者・家族・地域が同じ地図を共有し、途切れないサポートラインを張り巡らせる――それこそが後遺症を最小化し、誰もが自分らしい人生を取り戻す近道です。
情報源・出典元データなど
専門機関
- 日本脳卒中学会(The Japan Stroke Society) — 診療ガイドラインや学会声明、脳卒中データバンクなどを公開
- 日本脳卒中協会 — 市民向け啓発(FAST運動)、地域連携パス資料を提供
- 国立循環器病研究センター(NCVC) — 脳卒中治療・予防に関する最新研究と患者向け情報
- 厚生労働省・循環器病対策推進室 — 循環器病対策基本法関連資料、国民医療費・患者調査
- 世界保健機関(WHO) – Cardiovascular Diseases Programme — 国際統計・政策レポート
- 米国疾病予防管理センター(CDC) – Stroke Division — エビデンスに基づく予防・二次予防資料
学術論文
- Saver JL. Time Is Brain—Quantified. Stroke. 2006;37:263-266.
- Hacke W et al. Intravenous t-PA within 3 Hours. NEJM. 1995;333:1581-1587.
- Campbell BCV et al. Endovascular Therapy after Imaging Selection in Ischemic Stroke (EXTEND-IA). NEJM. 2015;372:1009-1018.
- Powers WJ et al. 2018 Guidelines for Early Management of Acute Ischemic Stroke. Stroke. 2018;49:e46-e110.
- Toyoda K et al. J-STARS: Statins for Secondary Prevention in Japanese Patients. Stroke. 2015;46:367-373.
- Albers GW et al. Thrombectomy 6–16 Hours after Stroke (DEFUSE 3). NEJM. 2018;378:708-718.
その他、Webサイト
- e-ヘルスネット(厚生労働省) — 生活習慣病と脳卒中の一次予防解説
- MSDマニュアル プロフェッショナル版— 症状・診断・治療の解説
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