脳出血は、脳内の血管が破れて出血を起こす疾患です。脳組織内に血液が流入すると、周囲の神経細胞が圧迫され、正常な機能が阻害されます。突然の頭痛や意識障害などの症状が現れ、迅速な対応が求められる一方で、適切な治療とリハビリによって回復を図ることも可能です。
本記事では、脳出血の基本から原因、症状、治療法、予防策、そしてご家族ができるサポートまで、わかりやすく解説いたします。
脳出血の初期症状
脳出血の発症時には、さまざまな初期症状が現れます。早期発見が回復のカギとなるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
突然の激しい頭痛
脳出血では、普通の頭痛とは異なる「バットで殴られたような強烈な痛み」が特徴です。痛みは一瞬でピークに達し、耐え難い場合が多いです。
吐き気・嘔吐
頭蓋内圧が急激に上昇するため、吐き気や嘔吐がしばしば伴います。特に繰り返し嘔吐する場合は要注意です。
意識障害
軽度のものから昏睡に至る重度のものまで、意識レベルの低下がみられます。家族や同僚が「様子がおかしい」と感じたら、すぐに救急要請をしましょう。
半身の麻痺やしびれ
脳内の出血部位によっては、体の片側に力が入らなくなったり、しびれを感じたりします。言語障害や視野障害が同時に起こることもあります。
脳出血の症状チェックリスト
発症時にどのような症状があるかをリスト化し、緊急度を判断しやすくします。以下のチェックリストを参考に、速やかに医療機関を受診してください。
- 突然の激しい頭痛
- 繰り返す嘔吐
- 意識の混濁や昏睡
- 片側の麻痺・しびれ
- ろれつが回らない(言葉が出にくい/不明瞭になる)
- 視野が欠ける・物が二重に見える
※上記のうち複数該当する場合は、一刻も早い救急搬送が必要です。
若い人の脳出血の原因
脳出血は高齢者に多い印象がありますが、若年層でも発症リスクはゼロではありません。脳出血の原因は年齢層によって大きく異なります。若い人と高齢者それぞれで背景にある疾患やリスク要因が異なるため、診断・治療戦略も変わってきます。
若年層(概ね40歳以下)における脳出血は、「構造的・局所的な異常」や「特殊な全身疾患」が背景にあることが多いのが特徴です。
脳血管奇形(AVM・脳動静脈奇形、脳静脈奇形、海綿状血管腫など)
先天的に脳血管の構造が異常な場合、動脈と静脈がつながった状態になり、出血しやすくなります。無症状のまま突然破裂することがあり、注意が必要です。
特に海綿状血管腫(cavernoma)は若年発症例の23.3%を占め、次いでAVMが12.9%と報告されています。
血液疾患・凝固異常
血友病や白血病などの血液疾患、先天的・後天的な凝固因子異常は、小さな血管からでも出血を起こしやすくします。また、抗凝固薬や抗血小板薬の過剰内服も同様にリスクを増加させます。
腫瘍性病変
転移性脳腫瘍や原発性脳腫瘍が出血を伴うことで、脳内に血液がたまることがあります。若年層では進行性の強い悪性腫瘍が原因となることもあります。
感染性・炎症性血管障害
細菌性心内膜炎による塞栓や、結合組織病・血管炎症(膠原病など)による血管壁損傷による発症も稀ではありません。
外傷性出血
交通事故や転倒による頭部外傷が原因で、脳内に出血が起こる場合があります。スポーツや日常生活での頭部打撲にも注意を払いましょう。若年層ではこの外傷による出血も一定割合を占めます。
その他の稀な要因
先天性疾患(モヤモヤ病など)、動脈瘤、薬物乱用(コカインなど交感神経刺激薬)も稀ではありますが、要因となる可能性はあります。
高齢者の脳出血の原因
高齢者は血管そのものが硬化している事や全身状態が変化しやすいため、リスクが高いです。
高血圧性脳出血
最も一般的な原因です。長年の高血圧によって小穿通動脈が変性・破綻し、脳深部(被殻・視床・橋など)に出血を起こします。
アミロイドアンギオパチー
高齢者に特有の病態で、脳血管壁にアミロイド蛋白が沈着し、もろくなった血管が破れます。再発リスクも高いため、継続的な管理が求められます。
抗凝固薬・抗血小板薬の影響
心房細動や心臓弁膜症などを背景に抗凝固薬を内服している場合、脳出血のリスクが増加します。内服中の方は定期的な血液検査と血圧管理が重要です。
小血管病変(ラクナ梗塞を含む)
加齢による血管の硬化・狭窄が進行し、微小血管からの出血を起こす場合があります。しばしば認知機能低下や脳萎縮と同時にみられるケースもあります。
その他(腫瘍性、外傷性など)
若年層ほどではありませんが、頭部外傷や腫瘍による出血も一定の割合で認められます。
高齢者では「全身性・加齢性リスク因子による血管変性」が主体であるのに対し、若年層では「局所的・構造的異常や特殊疾患」が多く背景にあることがわかります。したがって、予防や早期発見のためには若年層では脳血管撮影や遺伝子検査、血液凝固検査など精密検査が必須となる一方で、高齢者では血圧管理や抗凝固薬モニタリング、認知・機能評価を重視した管理が中心となります。
脳出血の原因とストレスの関係
ストレスは直接の出血原因ではありませんが、間接的に影響を与えます。慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させやすくなります。仕事や人間関係のプレッシャーが続くと、高血圧になりやすく、脳出血のリスクを高めます。定期的なリラックス法や運動、適切な睡眠を確保することが予防につながります。
症状・治療・後遺症
脳出血は発症直後の対応だけでなく、その後のリハビリや合併症対策も治療の一環です。
急性期治療
脳の圧迫を軽減するために、脳室ドレナージや開頭血腫除去術を行うことがあります。出血量や部位、患者さんの全身状態に応じて、手術適応を慎重に判断します。
保存的治療
小規模な出血の場合は手術を行わず、血圧管理や点滴治療、抗けいれん薬の投与などで経過を観察します。集中治療室での全身管理が求められます。
リハビリテーション
発症後できるだけ早期に、理学療法・作業療法・言語療法を組み合わせたリハビリを開始します。麻痺や言語障害が残るケースでも、脳の可塑性を生かして機能回復を目指します。
後遺症とケア
麻痺、言語障害、認知機能低下、感情障害などが生じることがあります。専門のリハビリチームだけでなく、家族を交えた在宅ケアプランの作成が重要です。
脳出血の予防
発症を防ぐためには、リスク因子の管理が基本です。
- 定期的な血圧測定と医師の受診
- 適度な運動習慣(週に150分以上の有酸素運動を目安に)
- バランスの良い食事(減塩・野菜摂取を心がける)
- 禁煙・節酒(アルコールは1日純アルコールで20g以下を目安に)
ビール(5%)なら中瓶1本(500ml)程度
日本酒なら1合(180ml)
ワインならグラス2杯(約200ml)
ウイスキーならダブル1杯(60ml)
- ストレスマネジメント(ヨガや瞑想などのリラクセーション法)
これらを日常生活に取り入れることで、脳血管の健康を保ち、脳出血のリスクを大幅に低減できます。
家族ができること
ご家族は患者さんの最も身近なサポーターとして、以下のサポートが重要になってきます
緊急時の対応準備
発症時は時間が勝負です。あらかじめ救急連絡先やかかりつけ医の情報を手元にまとめておきましょう。症状チェックリストを把握しておき、異変をいち早く察知できるようにします。
服薬・受診の管理
降圧薬や抗凝固薬を正しく継続して服薬することは予後に直結します。服薬スケジュールを一緒に確認し、定期受診に付き添うことで安心感を与えられます。
リハビリ支援
在宅リハビリでは、日常生活動作をサポートするアドバイスが有効です。移動や食事、コミュニケーションを補助しつつ、できるだけ本人の自立を促す関わり方が大切です。
心理的ケア
脳出血後は気分の落ち込みや不安感が強くなることがあります。専門家によるカウンセリングや、ご家族同士の交流会など、心のケアを行うことも回復の支えとなります。
リハビリテーションでQOLを維持するコツ
脳出血のあとでも、繰り返し使うことで神経のつながりが強くなり、機能が回復しやすくなるという、脳の「学習する力(可塑性)」が働きます。したがって「早期・高頻度・課題指向型」の三原則が重要です。
作業療法では、調理やパソコン操作など、実際の生活で行う動作をリハビリの課題として取り入れます。さらに、ゲーム感覚で楽しみながら取り組める工夫(=ゲーミフィケーション)を取り入れることで、やる気を引き出し、自分から進んで練習できるようにします。
言語リハビリでは、失語症の方が自宅から受けられるオンラインリハビリ(テレリハ)や、歌のメロディを使って話す練習をする方法(メロディックイントネーション法)がデジタル化され、通院しなくても継続的に訓練できるようになってきました。
歩行や体の動きを回復させるリハビリでは、ロボット機器や電気の刺激を使った新しい方法(FES)の効果が研究で証明されてきています。これにより、介護する人の負担を減らしたり、患者さんの転倒を防いだりすることに役立っています。
脳出血を経験された方のための「自宅ケアのポイント」
浴室や玄関の段差、狭い動線、滑りやすい床材は、転倒リスクを高める要因です。転倒予防のためには、介護保険の住宅改修費(上限20万円)を活用し、手すりの設置や段差の解消など、住環境の整備を優先的に進めることが重要です。
また、高次脳機能障害がある場合は、冷蔵庫に貼るメモや音声アラームなどを活用することで、忘れやすさや混乱を減らし、日常生活を自分でできるようにサポートすることができます。
嚥下(えんげ)障害がある方には、飲み込みやすいように工夫された食品(テクスチャー調整食品)や、飲み込みを助ける道具、姿勢を安定させるクッションなどが役立ちます。また、お口の中を清潔に保つこと(口腔ケア)を徹底することで、誤って食べ物や唾液が気道に入ってしまう「誤嚥(ごえん)性肺炎」の予防にもつながります。
ご家族の介護負担軽減策として短期入所(ショートステイ)や訪問介護夜間対応型の併用も計画的利用をしましょう。
脳出血にともなう医療費と公的助成
厚生労働省の国民医療費概況によると、脳血管疾患の年間医療費は1兆8,142億円。高齢者医療の需要とともに年々増加しています。
脳出血自体は指定難病の対象ではないため、「高額療養費」「医療費控除」「障害年金」「介護保険」「自立支援医療(精神)」など複数制度を組み合わせるのが現実的戦略です。重度後遺症で身体障害者手帳1・2級を取得すれば、所得税住民税控除や福祉タクシー券、公共料金減免なども活用できます。
治療費だけでなく、通院交通費、装具代、住宅改修費も医療費控除の対象になるケースがあるため、領収書は一元管理しておくとよいでしょう。
大田ケア訪問看護ステーションにおける脳出血の方への支援
大田ケア訪問看護ステーションは、2025年4月にスタートした、地域に根ざした訪問看護ステーションです。「ぬくもりと優しさ ココロに寄り添う看護」という理念のもと、脳出血を経験された患者さんとご家族が、ふたたび“いつもの暮らし”を取り戻せるように、専門的な看護とリハビリを一体となってお届けしています。
病院退院後、ご自宅での生活は不安や孤独感は想像以上に大きいものです。訪問看護師とリハビリスタッフが、「痛みやしびれへの対処」「日常を取り戻すための小さな目標設定」「再発防止のための生活習慣改善」まで、心を込めてサポートいたします。
脳出血ケアの土台は「対話による心のつながり」
「脳出血のケアにおいては、対話を通じた心のつながりが大切」です。訪問看護師は発症の経緯や現在の体調だけでなく、ご利用者さんの不安や悩み、ご家族の日常の出来事まで、時間をかけてじっくりお話を伺います。そして、医師・薬剤師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ケアマネジャーなど、多職種のチームと密に連携しながら、リハビリや医療処置の内容を常に話し合って調整しています。
訪問看護の内容
在宅ケアの中心となる訪問看護では、体温や血圧のチェック、排泄のサポート、ご家族の心のケアなど、医療的なサポートを行います。また、認知機能の低下や感情のコントロールが難しくなるなどの症状がある場合には、見やすいカレンダーの設置や、声かけのタイミングを工夫するなど、環境の調整を行います。さらに、ご家族様へのアドバイスもあわせて行い、不安やストレスを軽減しながら、安心して自宅での生活を続けられるようサポートしています。
脳出血リハビリでは「できること」を一つひとつ増やす
脳出血後のリハビリでは、「できること」を少しずつ増やしていくことが、生活の質(QOL)を高めるカギになります。大田ケアでは、歩く練習や手の動きを取り戻す訓練に加えて、調理や買い物といった“実際の生活に近い動作”もリハビリに取り入れています。そうすることで、ご利用者さんご自身が「自分でできた!」という達成感を感じられるよう、リハビリの内容を工夫しています。また、自宅の段差をなくす工事や、手すりの設置など、福祉用具の提案も行い、転倒のリスクを減らす工夫もしています。
経済的な負担に関して
経済的な負担をできるだけ軽くするために、訪問看護や訪問リハビリには介護保険が使えます。自己負担は原則1〜3割です。また、高額療養費制度や医療費控除、障害者手帳の取得など、利用できる支援制度をご案内し、経済的な負担が少しでも軽くなるようサポートしています。
脳出血患者さんとご家族の“これから”を共に描きます
大田ケア訪問看護ステーションの訪問エリアは、大田区を中心に、世田谷区・目黒区・品川区・川崎市の一部地域です。
住み慣れたご自宅で安心してリハビリを続けることで、退院後の再入院のリスクを減らし、最終的には「自分らしい生活を取り戻す」ことを目指しています。脳出血後の生活や、訪問看護・リハビリについてのご相談がありましたら、お気軽に大田ケア訪問看護ステーションまでお問い合わせください。
心に寄り添う訪問看護で、一日でも早く、自分らしい暮らしを取り戻せるようお手伝いします。 脳出血は、発症したその瞬間から時間との戦いが始まりますが、退院後も「生活期」と呼ばれる回復のステージが続きます。
この先も自分らしく暮らし続けるためには、医療者・患者さん・ご家族・地域が一つのチームとなり、切れ目のない支え合いを続けることが大切です。
そうしたつながりが、後遺症をできるだけ軽くし、前向きな回復への近道になります。
情報源・出典元データなど
専門機関
- 日本脳出血学会(The Japan Stroke Society) — 診療ガイドラインや学会声明、脳出血データバンクなどを公開
- 日本脳出血協会 — 市民向け啓発(FAST運動)、地域連携パス資料を提供
- 国立循環器病研究センター(NCVC) — 脳出血治療・予防に関する最新研究と患者向け情報
- 厚生労働省・循環器病対策推進室 — 循環器病対策基本法関連資料、国民医療費・患者調査
- 世界保健機関(WHO) – Cardiovascular Diseases Programme — 国際統計・政策レポート
- 米国疾病予防管理センター(CDC) – Stroke Division — エビデンスに基づく予防・二次予防資料
学術論文
- Saver JL. Time Is Brain—Quantified. Stroke. 2006;37:263-266.
- Hacke W et al. Intravenous t-PA within 3 Hours. NEJM. 1995;333:1581-1587.
- Campbell BCV et al. Endovascular Therapy after Imaging Selection in Ischemic Stroke (EXTEND-IA). NEJM. 2015;372:1009-1018.
- Powers WJ et al. 2018 Guidelines for Early Management of Acute Ischemic Stroke. Stroke. 2018;49:e46-e110.
- Toyoda K et al. J-STARS: Statins for Secondary Prevention in Japanese Patients. Stroke. 2015;46:367-373.
- Albers GW et al. Thrombectomy 6–16 Hours after Stroke (DEFUSE 3). NEJM. 2018;378:708-718.
その他、Webサイト
- e-ヘルスネット(厚生労働省) — 生活習慣病と脳出血の一次予防解説
- 日本脳出血データバンク公式サイト — 国内症例の統計速報・公開年報
- 国立循環器病研究センター「脳出血予防10か条」 — 市民向け予防チェックリスト
- 日本生活習慣病予防協会 – 脳出血特設ページ — 食事・運動・減塩の実践ヒント
- 日本脳出血友の会/患者家族サポート団体 — 体験談、ピアサポートイベント情報
大田ケアに相談する、知る
■看護・リハビリスタッフによる個別相談(無料)を予約する
https://otacare.com/otoiawase/
*お問合せフォームに、「個別相談希望」とご記載ください。折り返しご対応させていただきます
■大田ケアのパンフレットを見る
https://otacare.com/news/20250412/
☐私たちと一緒に働きませんか?採用情報を確認する
https://otacare.com/rikuru-to/
*看護・リハビリスタッフともに積極的に受け付けております
☐スタッフインタビューを見る
https://otacare.com/team/
大田ケアのコンテンツが、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
大田ケア訪問看護ステーション
info@otacare.com